カムイ伝の絵を最初から見直すと、前半から中盤までカムイ、正助、竜之進とも美形である。

これは白土三平の特徴でもあり、永井豪車田正美につながる、少年漫画の戦うヒーローが細身で女性のように美しい顔をしているというのは、ひょっとして白土が始めたのではないだろうか?

先日読んだ風の石丸や、忍者武芸帳の主人公の一人である重太郎も長髪でまつげが長く女顔である。

カムイ伝では三人の主人公がそれぞれ違うタイプの美形であるというのも他の作家にはない特徴だろう。

並のマンガ家だったら1人は正義感の強い熱血漢、2人目はキザで秀才型、3人目は人が良くて力持ち、みたいにしてしまうだろう

この主人公がまつげの長い美形であるというのも白土作品の重要な魅力の一つだろう

矢口高雄釣りキチ三平荒木飛呂彦魔少年ビーティーがその影響を受けている

 

ところがこのまつげが長いカムイは10巻くらいまである。

今単行本で調べたところ、カムイが搦の手風にとらえられ、海で十字架にはりつけにされるシーン、幼少時代からまつげの長かったカムイはここが最後。

次にカムイが出てくるのはカムイと手風の蔵六の謎をめぐる戦いのシーンだが、この時のカムイはそれまでと違い、熱血少年漫画風とでもいうか男前な顔になる。

おそらくこの辺りから作画が小島剛夕ではなくなったのだろうが、このカムイが出てくるのはほんの少しの間だけ

その後は何度も書いてる私の好きな、一角と堂面六左、右近とアテナ、数馬とカサグレらのエピソードに入るが、この辺りは私が好きな絵なので断言するが小島剛夕の絵で間違いないと思う

いったん小島剛夕の絵に戻るのは、これはカムイ伝が複数の体制でエピソードごとに別々に書かれていたことを意味すると思う。

 

カサグレが殺され、数馬と玄蕃のエピソードが終わると、竜之進の木の間党の話に入るが、さあここからがカムイ伝最大の不幸であり、最大の問題である。

もう誰が誰だかわからないほど絵が変わり、どう見てもうまいとは言えないひどい絵になる。

主人公も3人とも不細工に。

この絵が後半は多少慣れた感じにはなるが最終回まで続くのが残念なところ。

この終盤の絵が岡本鉄二なのか誰なのかわからないが好きなシーンもないことはない。

この人はアクションシーンを描くのがとてもうまく、手風と玄蕃が戦うシーンのスピード感は見事しか言いようがない。

手や足による攻撃や体のぶつかり合いを多くのコマを使って具体的に描く技術はすごい。

それまであれほど強かった玄蕃を手玉に取るほど、手風の圧倒的な強さの演出もいい

外伝の2部を描いているのも同じ人なのであれば、棒庵とウツセが出会い戦うシーンや

棒庵の速さに島出雲が「み、見えぬ…」といって驚くシーンの描写も見事だ。

現代ではよく居合抜きや時代劇のパロディにされるような、本人が武器を抜いた様子も無いのに次の瞬間にバタバタと周りが倒れるような演出、

これも発明は白土三平なのだろうか。