図書館につげ義春コレクションが9巻のうち8巻あるのを知ったので
ほぼ全部読んでみた。
はっきりいって、つげ義春って代表作である5.6本以外にいいものはほとんどない。
わたしは「ねじ式」のようなシュールなものより「紅い花」「長八の宿」「ほんやら洞のべんさん」のような詩的・牧歌的なものが好きだが、そういうものは他にはほとんどない。
無能の人や同棲シリーズは私は退屈に感じる。
とはいえ初期の貸本時代のミステリー・サスペンスもの、白土三平に影響を受けたと思われる時代劇・忍者物はどれもストーリーがよく練られていて、作者は20代だと思うが天才的な才能と努力を感じさせる。
貸本というのはよく知らないが毎回こんな凝ったストーリーを考えていたら、ノイローゼにでもなってしまうだろうと思った。
特に「忍びの城」というのがよかった。以降ネタバレ
ある侍が殿と顔が瓜二つだったため家老に呼ばれ、殿の影武者になるよう命ぜられる。
そのため家族と会うことは許されず、残された妻と息子は口封じのため、町を追い出される。
ある日、殿が何者かに殺されてしまうが、侍は影武者である自分が殺されたかのように見せかけ、自分が殿としてふるまうことにする。
その後、家老に自分が影武者のほうであることを見破られるが、実は殿を殺したのは家老であり、実権を握ろうともくろんでいた家老に泳がされていたことを知る。
ここまでは影武者をテーマにしたミステリーならありそうな話だ。
だが、その黒幕であったはずの家老も何者かに殺されてしまう。そして殿に扮した
侍にもその刺客が襲ってくる。
いったい何が起きてるのだろうか。私は全く展開が読めなかった。
その刺客は序盤で口封じのために町を追い出され、父親を奪われ殿に復讐に来た侍の息子だった。
白土三平の忍者物でも影武者や傀儡などを題材にしたものは多いが、たいてい誰が誰だかわからなくなったまま余韻を残して終わるものが多い。
もっともそれが白土作品の味であり、忍者の謎や能力のすごさ深める効果を出している。
つげ義春のこれはそういう白土作品に影響を受けたのだと思うが、実にうまくストーリーが完結している。