父や祖父や先祖様が住んでた家が、叔父が亡くなってから空き家になってるのでたまに掃除しに行っている。
周りは田んぼばかりのド田舎で、他所から来た私をどんな目で見ているかわからないから少々ビビッている。
先日、山の草を刈る練習でもしようと山に向かっていたら、昔からそこにすんでいる父や叔父と同世代の河村さんというおじいさんに合う。
なんかすげー不機嫌そうな顔。
「(満面の笑みで)あっ、あのう。ぼ、ぼくは勝彦の次男の淳といいます〜」
「…。」
「ちょ、ちょっと草刈機の練習中で…ハハハ。」
「…あんた、あの家に住まんのんか?(ムスっとした表情で)」
「(なんでいきなりケンカ腰?)え?ええ〜、もうだいぶ傷んでますしね。水道もおかしいし、この辺でいい業者ご存じないですか?」
「そんなことわしゃ知らん」
「(そんな言い方するか〜?)はは、そうですか」
そんな感じでその時は切り抜けた。普段の私だったらムカッときて言い返してただろう。
しかしこんな人の少ない田舎で年長者に嫌われたら最後だ。私の人格が試されている。
この河村さんはうちの父が亡くなったときに泣き崩れていた。変人で友達もおらす気難しい父が死んでも誰も泣いたりしないと思っていた。
報告に行ったらこの人はショックで腰が抜けたようにへたり込んでしまっていた。悪い人ではないはずだ。そう思って我慢した。
その翌日、裏の畑でごみや昨日刈った草を燃やしていたら
「おーい」
とどこかで声がすると思ったら、河村さんが自分ちの屋根に上って柿をとっている。
「おーい、ここへ来い」
また何か言われるのかなあとおもいながら屋根の下まで走っていく。
「あんた、昨日そこへ泊ったんか」
「(またその話か、なんだ一体?)いえ、泊まってません。夜に帰りました」
「夜、二階の明かりがついとったろうが。明かりがついとるとやっぱりええのう!」
「え?」
「その家に明かりがついてるのを見るのは10年ぶりじゃゆうて、うちの(奥さん)と話しとったんよ」
「そうだったんですか…」
これにはグッときた。確かにここは家と家が離れているから夜は周りは真っ暗だ。私も昨日怖かったくらい。
住んでる人たちは平気なのだろうと思ってたが、やはり近所の家の明かりを見てお互い安心してたのだろう。
それで私にそこに住まないのかあんな真剣に聞いていたのか…
屋根の上から柿をたくさん投げて私にくれた。
芥川龍之介の「蜜柑」みたいな話だな〜。と思いながら柿を食った。